2025-06-02
【AWSで始める機械学習】
AWSの機械学習データストアまとめ
機械学習(ML)モデルの成功は、そのモデルが学習し、推論に使うデータの質と管理に大きく依存します。データはまさにAIモデルを育てるための「食料」であり、この「食料」をいかに効率的に、そして適切に保存・管理し、必要な時に必要なだけ供給できるか、がMLプロジェクト成功の鍵となります。
AWSは、クラウドの巨大なデータニーズに応えるため、多種多様なデータストアサービスを提供しています。しかし、その選択肢の多さゆえに、「どのデータストアを、どの目的で、どのように使い分けるべきか?」という疑問を抱く方も少なくありません。不適切なデータストアの選択は、学習時間の長期化、コストの増大、あるいはモデルのパフォーマンス低下につながる可能性があります。
本記事では、AWSが提供する主要なデータストアサービスを、機械学習の観点から「図鑑」のように整理し、それぞれの概要、主要な特徴、得意なデータタイプとアクセスパターン、そしてMLワークフローにおける最適な役割を分かりやすく解説します。今回は、特にAmazon Redshiftのような高性能データウェアハウスも含め、各データストアの特性を最大限に活かし、AIモデルの「食料庫」を最適に設計し、機械学習プロジェクトを加速させるためのデータストア選定の羅針盤を探求しましょう!
機械学習プロジェクトのライフサイクル(データ収集、準備、トレーニング、推論)を通じて、データストアには様々な要件が求められます。
データ量のスケーラビリティ
TBからPBオーダーに及ぶ大量のデータを効率的に扱う能力。
多様なデータ形式への対応
構造化、非構造化、半構造化データなど、様々な形式のデータを柔軟に保存・処理できること。
高速なアクセス性能
モデルトレーニングのための高スループットな読み込み、リアルタイム推論のための低レイテンシなアクセス。
コスト効率
大容量のデータを長期にわたって保持するためのストレージコストと、アクセスに対する転送コストの最適化。
セキュリティとコンプライアンス
機密性の高いデータを安全に保存し、アクセスを厳しく制御すること。
ETL/MLツールとの連携
AWS Glue、Amazon SageMaker、Amazon Athenaなど、MLワークフローツールとのシームレスな統合。
AWSのデータストア群は、これらの要件に応えるために、それぞれが特化した強みを持っています。
ここでは、機械学習で特に頻繁に利用されるAWSの主要データストアサービスを、その特性とMLワークフローにおける位置付けとともに紹介します。
サービス名 | 概要と主要な特徴 | 得意なデータタイプとアクセスパターン | MLワークフローにおける主な役割と連携先 |
Amazon S3 (Simple Storage Service) | オブジェクトストレージサービス。事実上無限のストレージ容量、99.999999999%の高い耐久性、多様なストレージクラスによるコスト効率が特徴です。 | 非構造化データ(画像、動画、音声、テキスト、ログなど)、半構造化データ(JSON、CSV、Parquetなど)。 大量データの保存、長期アーカイブ、データレイクの基盤。 | データレイクの基盤、トレーニングデータストア、モデルアーティファクトストア。 あらゆるML関連データの集約・保存先です。 AWS GlueでETL処理されたデータ、Amazon Athenaで直接クエリ可能なデータとして活用されます。 Amazon SageMakerのトレーニングジョブが学習データを直接読み込み、学習済みモデルの保存先ともなります。 |
Amazon RDS (Relational Database Service) | フルマネージド型リレーショナルデータベースサービス(PostgreSQL、MySQL、Auroraなど)。トランザクション処理、スキーマの厳密な管理、高い一貫性を特徴とします。バックアップ、パッチ適用などもAWSが管理します。 | 構造化データ。 オンラインでのトランザクション処理、厳密な整合性が求められるアプリケーションデータ。 | 特徴量エンジニアリングのソース、推論結果の格納。 アプリケーションの基幹運用データ(顧客情報、注文履歴など)をMLの入力として利用する際、 AWS GlueなどでS3へ抽出し特徴量エンジニアリングを行います。モデルの予測結果をアプリケーションに返すためのバックエンドデータベースとしても利用されます。 |
Amazon DynamoDB | フルマネージド型NoSQLデータベースサービス。キーバリューおよびドキュメントデータストア。ミリ秒単位の低レイテンシ、高いスケーラビリティ、完全マネージドが特徴です。 | 非構造化データ、半構造化データ。 高速な読み書き、オンラインアプリケーション、リアルタイムデータアクセス。 | リアルタイム特徴量ストア、モデルのメタデータ/設定ストア、推論結果の高速格納。 Amazon SageMaker Feature Storeのオンラインストアとして、リアルタイム推論において最新の特徴量やユーザープロフィールを低レイテンシで提供します。 AWS Lambda などのリアルタイム処理や、推論結果の高速な格納・参照にも利用されます。 |
Amazon Kinesis (Data Streams / Data Firehose) | リアルタイムストリーミングデータの収集、処理、配信サービスです。 Data Streams データの永続保持、順序保証、複数のコンシューマ。 Data Firehose ストリーミングデータをS3、Redshiftなど特定宛先にシンプルに配信。 | 継続的に生成されるストリームデータ(IoTセンサーデータ、クリックストリーム、アプリケーションログなど)。 リアルタイムなデータ取り込みと処理。 | リアルタイム特徴量パイプライン、オンライン学習の入力、リアルタイム推論の入力/出力。 継続的に生成されるデータをリアルタイムでMLパイプラインに取り込みます。 Amazon Kinesis Data AnalyticsやAWS Lambdaでリアルタイム変換・集計を行い、Amazon SageMakerのリアルタイム推論の入力として、または推論結果の出力として活用されます。 Kinesis Data FirehoseでS3やRedshiftへの効率的なバッチロードも行えます。 |
Amazon MSK (Managed Streaming for Apache Kafka) | オープンソースの分散ストリーミングプラットフォームApache Kafkaのフルマネージドサービス。Kafkaとの高い互換性、高いスケーラビリティと耐久性が特徴です。 | 継続的に生成されるストリームデータ。 リアルタイムなイベントストリーミング、既存Kafkaワークロードの移行。 | リアルタイムMLパイプラインの入力/出力。 Kinesisと同様に、ストリーミングデータの収集・処理の基盤として利用されます。 Amazon Kinesis Data Analytics for Apache Flinkやカスタムアプリケーションでデータを消費し、 Amazon SageMakerへのリアルタイムデータ供給や推論結果の配信に活用されます。特に既存のKafkaエコシステムや、オープンソースのKafkaの機能性をフル活用したい場合に強力です。 |
Amazon Redshift | フルマネージド型ペタバイトスケールのクラウドデータウェアハウス。列指向ストレージと並列処理アーキテクチャにより、大量の構造化データに対する高速分析を可能にします。標準SQLに対応。Redshift ML機能により、Redshift内のデータからSQLを使って直接機械学習モデルを構築・トレーニング・デプロイできます。 | 構造化データ、半構造化データ。 大規模な履歴データの集計、複雑な分析クエリ、BIレポート作成。 | トレーニングデータ準備のための大規模分析、バッチ推論の入力/出力、インデータベースML。 S3からデータをCOPYコマンドなどでロードし、複雑なSQLクエリで特徴量を生成します。これらの特徴量をAmazon SageMaker Trainingの入力として直接利用したり、Redshift MLでRedshift内で直接モデルを構築・デプロイしたりします。バッチ推論の入力データソースとしても利用され、推論結果を再格納することも可能です。 |
Amazon SageMaker Feature Store | 機械学習のための特徴量を一元的に保存、管理、共有するための専用データストア。オンラインストア(リアルタイム推論用)とオフラインストア(バッチトレーニング用)を両方提供。特徴量の一貫性と再利用性を高めます。 | 構造化された特徴量データ。 トレーニングと推論における特徴量の管理と一貫性の確保。 | 特徴量管理の一元化と再利用、トレーニング-推論のギャップ解消。 AWS GlueやAmazon EMRで生成された特徴量を保存し、Amazon SageMaker Trainingがバッチトレーニング用にオフラインストアから特徴量を読み込みます。 Amazon SageMaker Endpointはリアルタイム推論時にオンラインストアから低レイテンシで特徴量を取得し、常に最新で一貫性のあるデータで推論を行うことを可能にします。 |
以下は、一般的な機械学習ワークフローにおけるAWSデータストアの連携例です。各データストアがどのように「絡み合い」、シームレスなデータフローを形成するかをご覧ください。
AWSは、機械学習の複雑なデータニーズに対応するために、多様で強力なデータストアサービスを提供しています。Amazon S3をデータレイクの基盤として活用し、Amazon RDSやAmazon DynamoDBで運用データを管理し、Amazon KinesisやAmazon MSKでリアルタイムデータを処理し、Amazon Redshiftで大規模な履歴データを分析し、Amazon SageMaker Feature Storeで特徴量を一元化するといった、最適な組み合わせを選択することが、MLプロジェクトの成功には不可欠です。データストアの選択は、データ量、アクセスパターン、必要なレイテンシ、セキュリティ要件、そしてコストを総合的に考慮して慎重に行う必要があります。ぜひ、ご自身の機械学習プロジェクトの要件とデータの特性を明確にし、本記事で解説したAWSデータストアサービスを参考に、最適な「AIモデルの食料庫」を設計してみてください。データの力を最大限に引き出すことで、革新的なAIモデルの実現へとつながるでしょう。
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